若狭和紙ができるまで

若狭和紙の作り方。取材日記。

和紙は一体どのようにして作られているのでしょうか。

若狭和紙を作っている大江重雄さん(大江紙店社長の大江幸一の叔父にあたります) が

和紙を漉く準備を始めるということで、社長の娘である私が取材をさせてもらうことになりました。

 

12月頃から和紙の原料である「コウゾ」の下準備を始めて、和紙が出来上がるのは翌年の2月だそう・・

これから和紙が出来上がるまでの工程を長期取材していきますので、お楽しみに!!

 

*取材は2006当時の内容です。

*一部「若狭和紙とは」のページで紹介している「和紙の製造工程」と内容が違います


目次

1.和紙原料「コウゾ」の下準備 (2006年12月11日)

2.「コウゾ」の煮込み作業    (2006年12月23日)

3.「コウゾ」のチリ取り作業  (2006年12月24日)

4.「コウゾ」の叩解(こうかい)作業と紙漉き (2007年2月3日)

5.和紙の乾燥 (2007年2月5日)


1、「コウゾ」の下準備

2006年12月11日(月)

 

小浜市内から車で約25分。福井県小浜市中名田地区で若狭和紙を漉く準備をしているとのことで、初めての取材をしてきました。まわりは山と田んぼの、のどかな地域。近くを流れる田村川がとても綺麗です。

 

この日は天気が良かったので、来年1月~2月に和紙を漉くための、和紙の原料「コウゾ」を乾燥させているところを見学させてもらいました。紙質を良くするためにコウゾを蒸して黒皮を剥ぎ、それを天日に干し乾燥させて、紙を漉くまで保存しておきます。昔は近くにたくさんコウゾが生えていたようですが、現在は主に四国のコウゾを使用しているそうです。

 

300年以上も前から漉かれている若狭和紙ですが、今では製紙業を営んでいるのはほんの数件とのことです。

時代の流れとともになくなりつつある風景。

初めて見た風景ですが、どこか懐かしさを感じました。

おじさんは今年82歳。まだまだお元気ですが、お手伝いできることがあればやりたいなと思います。

 

コウゾを乾燥中

天然のコウゾ。昔はたくさん生えていたそう。



2、コウゾの煮込み作業

2006年12月23日(土)

 

和紙作りの次の工程に進む、という連絡があり早速2度目の取材に行ってきました。

本日は、前回天日に干しておいた「コウゾ」の煮込み作業です。

 

干しておいた「コウゾ」は、前日のうちに水に浸して柔らかくしておきます。

水を入れた大きな釜を沸騰させておき、その中に柔らかくなった「コウゾ」を入れて、3時間ほど煮込みます。

煮込むことで「コウゾ」がさらに柔らかくなります。

大きな釜にあふれるくらいたくさんの「コウゾ」を入れて煮込むので、「これで一年分の和紙を作るのですか?」

と伺ったところ、たった500枚程度の和紙の原料らしく・・・これから同じ作業を何度も何度も繰り返すそうです。

体力も時間もかかる大変な作業です。

 

本日の作業はこれで終わり。

明日、煮込んで柔らかくした「コウゾ」を水にさらしてアクを抜きます。

 

取材が終わった後、近所のお宅でも和紙を作っているということを伺い、お邪魔させてもらいました。

広い作業場では、もう和紙を漉いておられました。

当店で扱わせていただいている和紙をちょうど漉いているところで、初めて見て感激!!

もう50年も漉いておられるそうです。

和紙を漉く詳しい工程は、これから順をおって取材していきますので、お楽しみに!!

私も紙を漉かせてもらえることになり、とても楽しみにしているのです。

コウゾを煮込む釜。重雄さんの「おじいさん」から3代にわたり使用している立派な釜です。

沸騰した釜の中に「コウゾ」を入れます。

これで和紙500枚くらいの量。一週間ほどで漉くそうです。

もう一軒若狭和紙を漉いているお宅。

漉きたての和紙を乾燥機に貼り付けて乾燥させていきます。

一枚一枚手作業です。

釜の小屋です。湯気と煙が上っています。

風情がありますよね?



3.「コウゾ」のチリ取り作業

2006年12月24日(日)

本日は、昨日煮込んだ「コウゾ」の水洗いの作業です。

なぜ 水洗いをするのかというと、「コウゾ」にはチリや黒っぽい傷がついていることがあり、

それを取り除かないでおくと和紙を漉く時に混ざってしまうからです。

それで、キレイな井戸水を使い、丁寧にチリを取り除きます。

 

冷たい井戸水にさらして、一つ一つ汚れを取り除くのですが、

かがんでの作業なので、腰も痛くなるそうです。

私も少しだけ体験させてもらいましたが、寒空の下での細かい作業は本当に大変!

しかし、このチリを取り除く作業が、紙の良し悪しを左右するとても重要な工程なのです。

 

水洗いした「コウゾ」は乾かないよう壺に入れて保存しておきます。

これで、次の工程の「コウゾ」の叩解作業まで保存です。

 

次回は1月上旬に取材予定です! 

コウゾを洗う作業。「手袋をはずしたほうが写真の見栄えが

いいかな?」と写真の出来栄えを気にする重雄さん。

私も体験させてもらいました。

右に積まれているのが柔らかくなった「コウゾ」の山!

かがみながらの作業は大変です。

洗い終わったコウゾは壺に入れて保存しておきます。

おまけ・・

お土産にこんなにたくさんの野菜をいただきました!

綺麗な水で育てられた採れたての野菜はおいしい~!



4.「コウゾ」の叩解(こうかい)作業と紙漉き

2007年2月3日(土)

年が明けてから初めての取材に行ってきました。

 

前日、全国的な寒波に襲われ小浜市も久しぶりの積雪。

しかし、今日は天気も良く、気温も高かったので道路の雪はほとんどなくなり

和紙を作っている中名田地区まで気持ちのよいドライブができました。

 

今回は、水洗いして保存しておいた「コウゾ」を

ビーターと呼ばれる機械を使った『繊維を細かくほぐす作業』と、

いよいよ『紙漉きの作業』です。

長くなりますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

 

 

まずは、ビーターと呼ばれる繊維をほぐす機械に

地下から汲んできた水を入れ、その中にコウゾと少量のパルプを入れます。

(本当は原料がコウゾだけの方が、強くてより良質な紙が作れるそうなのですが、

そうすると漉ける枚数が少なくなり紙の値段が高くなることから、注文に応じて現在はこのようにしています。)

 

そして、ビーターのスイッチを入れると・・

ドラムが回転し、「流しそうめん」みたいにクルクル回ります。

ドラムの中の刃がコウゾの繊維をほぐしていくのです。

ドラムを通ったコウゾは綿みたいにふわふわ。

 

写真の左側中央がドラム。

 

しばらく回転させてから、ビーターの栓を抜き、

水とコウゾをその下においてある石釜に流します。

そこで、水抜きをします。

やっと紙を漉く準備が整いました。

 

ここまでで、すでに大変な作業!!

工程はほとんど屋外での作業なので、

今年はまだ暖冬とは言え、寒さとの戦いでもあります。

 

そして、いよいよ『紙漉き』です。

先ほど水抜きした原料を「漉き舟」という水の入った

大きな容器に入れ、「ネリ」を加えます。

「ネリ」は繊維を絡ませる役割をします。

紙を漉く簀(すのこ)をゆすってもコウゾが流れないようにするのです。

そして、撹拌機のスイッチを入れ、

コウゾと水とネリがよく混ぜあわせます。

紙を漉く準備が完了しました。

 

 ←キレイに撮れませんでしたが・・

ガタゴトと柵が動いて材料を混ぜあわせるのです。

 

紙漉きの「漉き桁(ケタ)」の上に「漉き簀(す)」を敷き、「漉き舟」の中にくぐらせます。

重雄さんは慣れた手つきで縦・横に「漉き桁」を動かし、繊維を絡ませていきます。

紙を漉くときにイメージする光景です。

何度か原料液にくぐらせることによって紙の厚さを調節するそう。

この日は、提灯(ちょうちん)用の紙を作っているので、

やや厚手です。

最後にチャッチャッと「漉き桁」をゆすり余分な水を飛ばします。

 

漉いた紙はこのように薄い膜みたいになっています。

 

「漉き桁(けた)」から「漉き簀(す)」をはずし、

後ろに置いてある台に紙を重ねていきます。

 

水を含んだ柔らかい、まだ紙とはいえない繊維の層ですが、

キレイに簀(すのこ)からめくれていくのです。

何枚も重ねてあるので

「重ねていてもくっつかないのですか?」

と聞きましたが、大丈夫だそうで乾燥するときにも一枚一枚キレイにめくれるそうです。

びっくり!

 

その後、何度も何度も同じ作業を繰り返します。

昔は、早朝まだ暗いうちから一日500枚も漉いていたそうです!!

今は200枚くらいが限界だとか・・

 

キレイに重ねられた漉きたての紙は柔らかく、まるでお豆腐のようです。

 

私も紙漉きを試させてもらいました。(写真がなくて残念です)

・ ・っっ!!思っていた以上に重いっ!

 

思い通りに全く動かず、オロオロしてたら繊維が片寄ってしまい残念ながら失敗・・

重雄さんの作業を見ていると、とても軽そうに見えましたが・・

 

重雄さん曰く、

「昔この辺りにお嫁さんに来た人は、紙を漉けるまで3年(!!)かかった」そうです。

 

次回、小判の紙を漉くときにもう一度挑戦させてもらえることになりました。

はたして「私の一枚」が出来るのでしょうか・・・

 

漉いた紙は水を多く含んでいるので、

重ねた紙をジャッキにかけて圧縮し、水をしぼります。

 

←板の間に紙を挟んで、圧力をかける

 

今日の作業はここまで!

 

これまで取材をしてきて感じたことは、

和紙作りでは水がとても大切だということ。

ずっと水を使い続ける作業です。

キレイな良い水が和紙の良し悪しを左右するといっても過言ではありません。

 

原料や機材は揃えられても、水はその土地にしかありません。

冷たく軟水のキレイな水が若狭和紙を支えてきたのですね。

重雄さんのお家は地下から水を汲んでいるので水道代もタダだそうです。

80歳を過ぎた重雄さんがこんなに元気なのもこの水のおかげなのでしょうか??

 

次回は、『乾燥作業』です。若狭和紙の作り方もいよいよ大詰め。

次回の取材をお楽しみに~!


5.和紙の乾燥

2007年2月5日(月)

 

和紙の製造工程もいよいよ最終段階です。

先日漉いた紙を乾燥させる作業をするという連絡を受け、行ってまいりました。

紙を漉いていた小屋の隣に、乾燥機が置いてある部屋があります。

 

この乾燥機は三角柱の変わった形をしています。

 

乾燥機は鉄で出来ており、中で炭を燃やして乾燥機を熱くし、

壁に和紙を貼りつけ乾燥させるのです。

 

鉄は2枚重なっており、その間に水が通っていて、

紙が焦げたり、鉄板が熱くなりすぎたりするのを防ぎます。

 

鉄板に触ってみましたが、手のひらをつけてもそれほど熱くありません。

 

 鉄板に貼り付けた和紙の上から触っています。

 

先日から圧搾しておいた紙を、一枚一枚めくって

(本当にキレイにめくれるのでびっくり!)

乾燥機に貼り付けていきます。

 

刷毛(はけ)を使ってサササッと

紙のしわを伸ばしていく重雄さん。

 

動きが機敏です。

写真が撮りやすいよう、

「止まってあげようか?」

と気にしてくれましたが

自然なまま写したいと伝えました。

 

乾燥機の両面の壁に紙を貼り、

乾燥したら剥がしていく作業を繰り返します。

 

壁にピタッと皺一つない紙が貼られ、紙に含まれた水分が蒸発し、

そこからもくもくと湯気がたっていきます。

それは、だんだん和紙に仕上がっているということ。

 

湯気がたたなくなったら出来上がりです。

 

寒くなったら、こうやって背中を鉄板に当てて

あたたまるんですって。

鉄板の壁からパリパリッと和紙を剥がします。

鉄板に貼り付いていた面が和紙のオモテです。

 

 

出来立ての和紙はほんのり温かく、

和紙が出来るまでの工程を見届けることが出来て感動しました。

 

私も一枚乾燥作業を体験させてもらいましたが、またもや失敗。。。

簡単そうに見えた刷毛(はけ)でしわを伸ばす作業ですが、逆にしわがついたまま乾燥してしまい・・・ごめんなさい。

四隅を上手く伸ばすのがコツだそうです。

今回出来上がった和紙がこちら。

この和紙は京都の提灯屋さんで使われる紙です。

 

9匁(もんめ)(紙の質量の単位)と少し厚めの和紙で、

国産のコウゾを使い・寒漉きの為、繊維がよくしまっていて丈夫です。

漂白していないコウゾ本来の色の和紙は温かみがあります。

 

若狭和紙は元々、和紙の型染め原紙や、傘、提灯に重宝されており、

重雄さんの漉いた和紙が浅草の雷門の提灯で使われています。

中名田地区のそばを流れる田村川の風景

紙の質量を量るはかり。

こちらの和紙にご興味があればお問合わせください。

 

問い合わせ先

大江紙店(和紙の店 おおえ)

電話番号 0770-52-1189

E-mail  wakasa_p_0e@ybb.ne.jp

 

以上で、「若狭和紙の作り方」の取材終了!

 

私自身、取材を通して勉強したことが多く、需要の減少や後継者不足など色々考えさせられることもたくさんありました。

 

「若狭和紙の作り方」を読んで下さった皆様が、少しでも和紙に興味を持っていただけたらとても嬉しいです。

 

大江重雄さん、毎回笑顔で色んなお話を聞かせていただき本当にお世話になりました。

どうもありがとうございました。